「いつも私が話すだけで終わってしまう」
「話を聞いてばかりでカウンセラーは何もしてくれない」
たまにこのような不満を持つクライアントさんがいらっしゃいます
確かにただ自分が話してばかり、これといった療法も行わず毎回話を聞いているだけのカウンセリングに不満を感じるかもしれません。「こんなの意味ないじゃん」と
でも、この「時間をかけて話してもらう、時間をかけて聴く」ことこそがこころのケアに重要なのです
ちょっと考えてみてください
あなた自身のことをこんなにじっくり話せる機会、聴いてもらえる機会なんて、日常生活ではほとんどないのではないでしょうか?
あなたに思いっきり話していただく…日常で行なわないことだからこそ専門的な治療になるのです
わかってもらうには時間がかかる
みなさんが見て面白いと思ったテレビ番組
翌日それを見てない友人に内容を話すなんてこと、ありますよね?
自分では面白く話しているつもりなのに、相手の反応を見ると「この面白さ、ちゃんと伝わってるのかなぁ?」と感じませんか?
そしてうまく伝わってないと思ったら番組の内容についてより詳しく説明して、それでも伝わりにくいなと感じてさらに細かいことから説明したり・・・
自分の体験を他人に「わかってもらえるように」伝えるのって、難しいですよね
体験している自分自身はその時の情景が目の前に浮かぶから少ない言葉で再体験できます。しかし何も知らない人に理解させるにはいろんな説明が必要になります
みなさんのつらさや苦しみは決して軽々しいものではないはず
ただでさえ他人に説明するのが大変だと思います
そのつらさや苦しみをカウンセラーにきちんとわかってもらえるように伝えるには1度や2度語り合うだけではとても足りないはずです
それなのに短時間で語り合うのを切り上げてしまうとどうなるでしょう
おそらくカウンセラーに本当のつらさや苦しみは伝わらず、誤解された状態で専門療法に入りかねません。これでは回復どころか悪化する危険があります
仮にカウンセラーが誤解していたとしても、何度も話し合う機会があると回を重ねるうちにその誤解に気づき修正することができます
みなさんが悩みやつらさを正しく伝えるため、カウンセラーがみなさんのことを正しく理解するために、語り合う時間を多く持つことは大切なことなのです
スタートは「癒すこと」
こころのケアは「癒す→わかる→なおる」という流れで行ないます
このうち最初の「癒す」のが話すこと、気持ちや考えを吐き出すことです
足を骨折した場合、いきなりリハビリを行うことはしませんよね
複雑骨折している状態で歩行訓練なんかしたら痛くてできるわけがありません
まずはしばらく安静にし、ある程度骨がくっついてからリハビリに入るはずです
「つらい」「苦しい」「どうしたらいいのかわからない」
これらは例えるなら”こころが複雑骨折している状態”
こんな状態で「ああしなさい」「こうしなさい」「これが原因だ」などと指示や指導をしたところで受け入れられるでしょうか?
「うるさい」「それ、もうやってる」「それは私の状況に合ってない」などと思いませんか?
これではかえって傷ついてしまったり余計に思い悩むことになってしまうでしょう。骨折が癒えてないのに無理やりリハビリを始めてかえって悪化するのと同じです
専門的な療法を使うのはこころの傷が癒えてからです
その癒す行程が話すことになります
思っていること、感じていること、抱え込んでいること、普段なかなか言えないことを思いっきり吐き出して発散することが癒しにつながります
目指すはこころの奥底で引っかかってる「何か」
しかし1度や2度のカウンセリングで吐き出せるのは表面的なものだけです
表面的な部分だけを癒しても根本的な解決には結び付きません。みなさんの抱えている悩みはそんな軽いものではないでしょう。きっとこころの奥底にはもっと濃くて固いドロドロが詰まっていると考えられます
この、こころの奥底の話にたどり着くために「あなたが話す時間」をたくさん取る必要があるのです
こうしてこころの奥底あるドロドロまで吐き出せたらそこで初めて気づく(=わかる)段階に移ることができます。そう、リハビリのスタート地点に立てるのです
「吐き出させる」という療法
こうしてあなたのこころをある程度癒すことができて、初めて必要な療法を適用する段階に入ります
ところが「こころの奥底にある気持ち、考えを吐き出したらスッキリして悩みが吹っ飛んだ」とここでカウンセリングを終了するケースもあります。思いっきり吐き出すことができたらあとは自力でなんとかできそうと活力が沸いてくる場合があるのです
実は話すこと、思いをしっかり吐き出すこと自体もひとつの治療法なのです
一見みなさんは「いつまでも話すだけ」と感じているかもしれません
ただカウンセラーの立場では、みなさんが話しやすい聴き方をしてみなさんの気持ちに流れを作る対話技法という技術を使ってます
例えば話の方向性
「ただ話すことだけしかしてない」とはいっても、カウンセラーはきちんとみなさんの悩みに寄り添い、みなさんの考えを引き出したり問題の解決を目指す方向で話を促しているはずです
これ、当たり前と思われがちですが結構技術のいる対話技法なのです
人って、自分の存在感をアピールしようとする傾向があります。そのため相手の話を聞くことよりも自分のことを話したがります
テレビ番組で、人物や商品のすばらしさを紹介する番組なのに、話の途中でスタジオの芸人が自分の持ち芸をぶちこんで話を脱線させてしまい興ざめすること、よくありますよね?
カウンセラーはそこに注意しながら、あくまでもみなさまが話の中心になるような対話技術をもってカウンセリングを行っています。そしてできているところ、優れているところを尊敬し、うまくいかないこと、がんばっているのにできないことを応援する。こうして「あなたの力になるフィードバック」をしてみなさまのこころにいい流れができるよう促していきます
こころにいい流れができると、こころの奥底へアプローチする近道ができるのです
「ただ話すだけ」という治療法
このようにカウンセラーの立場としては技術を使っている対話ですが、みなさまには「ただ話しているだけ」と感じていただいて構いません
ただ、その「ただ話すだけ」が
・メンタルケアの土台であり
・その目的はこころの奥底にある詰まりを吐き出すこと
・それらを吐き出せて初めてリハビリ(専門療法)に入れる
という流れと、話すこと自体も立派な治療法のひとつだということをわかっていただけると幸いです
最後までお読みいただきありがとうございました